交通流を科学する


広報佐賀大学、第14号(2003年1月)掲載

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交通渋滞は、私達に身近な現象の一つです。多くの人が、それぞれの「理 論」お持ちでしょう。自動車を運転するのは一人一人の人間ですが、多数 の車両が集まってできる交通流は、ある力学法則に従う流れ、あるいは多体 系として自然科学の対象となります。

交通流の研究は、自動車が普及し始めた1950年代から始まりました。しか し、コンピュータ資源の制限から、車両一台一台の挙動を追うようなシミュレー ションはあまり行われませんでした。1990年代以降、直接的なシミュレーショ ンを使った研究が盛んに行われています。

高速道路での車両の挙動は、先行する車両との間の距離に応じた速度へ加 減速する過程である追従挙動としてモデル化することができます。このような モデル化を行うと、交通渋滞は一様な流れの不安定化という相転移現象として 物理学の視点から捉えることができます。不安定化する密度と車両の加減速性 能が関連しています。

実際の交通流実測データを眺めると渋滞形成以外にも面白い現象が見えま す。トンネルなどのボトルネック上流には、低速で安定な流れが形成され、上 流に行くと不安定化して渋滞へと変化します。また、二車線高速道路では、交 通規則とは反対に、追越車線を走行車線よりも多数の車両が走っています。こ うした現象は、シミュレーションを通じて次第に再現されつつあります。しか し、それらを説明する明解な言葉にはなっていません。

交通流に関連した研究では、人の流れの研究やインターネット上の情報単 位であるパケットの流れの研究も活発になっています。地下道などで自発的に 流れの道が形成される現象、映画館での事故などの際の脱出、パケットの輻輳 と連結方法の関連などに関心が持たれています。

左図::一様な車両流れからの渋滞形成。各線は車両の軌跡を表す。横軸 は空間座標、下向きに時間が経過すると、等間隔であった車両列に渋滞が発生 する。車両台数を変更すると、渋滞流と非渋滞流の 相転移を見ることができる。


Shin-ichi TADAKI:
Last modified: Mon Mar 31 11:07:49 JST 2008